お話を描く話

 文学フリマ東京に向けて短編を書いていました。数年前に思いつきで、ちょっとした空想話を書いてみたところ、どこかが僕に馴染んだ感覚があって、それ以降はどうにか実体験でないお話を書いてみたいと思い続けていました。しかし、そうするとあまり面白い設定が思い浮かばなくて、テキストエディットの正確に点滅する棒を眺めているばかりでした。

 さらにその数年前、昔の中国の寓話で「混沌に目と耳と鼻と口の穴を開けていったら混沌が死んだ」といった旨の話を思い出して「僕は僕の中の混沌を時間をかけて殺してしまったのだなあ、どうにかまた息をさせたい」とぼんやり考えていました。

 時系列がバラバラですが、今から数ヶ月に高島野十郎展に行って、写実的なのに抽象画を見ているような、そしてそのうまく言い表せない抽象さが琴線に触れて、僕はこういったことをしたかったのだと気付きました。描写を突き詰めていけば、一度殺した混沌を元の姿にしてあげられるかもしれない。その方法を文章でやりたい。それは質感であってトリックや美観ではない。

 

 今回の短編が上手に描けたかはわかりません。でも、僕はこれを続けたい。